LOVE LETTER〜この愛は海よりも深く。

シアトル郊外の街・ベルビューの美しい風景を包み込む山下達郎氏のラブソングが彩る至高のラブストーリー。

原作「ベルビューの恋人」を主演を北川景子さんと森田剛さんで…シアトルロケで作れたら最高だなあ。主題歌は山下達郎さんの「エンドレスゲーム」でできたらどれだけ幸せだろう。

大沢真梨子(39)

30歳から不倫関係にあった男の子供を中絶させられ、その後すぐ他の女と再婚され男性不信になる。人生に絶望した真梨子は日本を離れ、単身アメリカワシントン州のシアトル近郊の街ベルビューに移り住んだ。そして湖の近くのコテージでひとりひっそりと暮らしていた。

 不倫相手に裏切られ、子供も中絶させられたことで人生に絶望した真梨子(北川景子)は、日本を捨てアメリカ西海岸のシアトル近郊の街・ベルビューに移り住み、マリーン湖のほとりのコテージでひとり、好きな絵を描きながら暮らしていた。それは余命宣告され、残りの人生を好きなことだけをして静かに暮らすため。ただそれだけだった。

人生の最後をひとりで暮らすと決めた或る春の日、いつものように湖のほとりで絵を描いているとそばまでやってきた一人の日本人らしき男性がいた。「こんにちは」と声をかけたが、無精髭を生やし、人生に、生きることに疲れ果てた顔に見えたその男は返事を返すこともなく立っていた。その男は真梨子が中学の頃からずっと憧れていた昔の先生、一夜(かずや)(森田剛)だった。それが一目でわかった真梨子。それでも自分が教え子だった大沢真梨子であることに全く気がつかない一夜。

そして異国の地という違う環境でふたりが一人の大人の男と女として、惹かれ合うまでに時間は必要なかった。それから二人の人生が急速に重なり合っていく。


 翌日から一夜も真梨子が住むコテージの近くのコテージを借り、ベルビューで人生をやり直そうと生活を始めた一夜だった。それから二週間後、勤め始めた現地の日本人子女のための学習塾のオーナーから接待され連れて行かれた店で、一夜についた女性は、コールガールとして最後の仕事に出た真梨子だった。そこで初めて知らされた真梨子の真実。

アメリカに来て、いつか誰かを本気で愛せるようになったときのために真梨子は不妊治療を受け始めていた。しかし元々治療費が高いアメリカでそれを続けていくためには、昼の仕事だけでは足りず、夜、コールガールの仕事をしていたと明かされた。「今日で最後にするつもりだった。やっぱり悪いことってできないんだね」そう言って泣き崩れた真梨子。それでも真梨子との人生を選んだ一夜はベルビュー郊外の結婚式場で仮初めの結婚式を挙げる。


 それから半年、二人とも人生で初めて味合う幸せな日々が続き、一夜はこのままずっと真梨子をそばで見ていたいと思っていた。

玄関先に現れた真梨子に「ごめん、イチ、今日は帰って。そして明日の朝7時にうちに来て」と言われ一夜は自分のコテージに帰る。そして翌朝、指定された時間に真梨子の部屋を訪れた一夜を待っていたのは、もぬけの殻になった部屋とテーブルの上に残された真梨子からの手紙だった。

ーーイチ、この手紙は祈りであり感謝です。最初で最後のイチへのラブレターだから、ちゃんと最後まで読んでね。昨日はごめん、あんなこと言って。でもこれでやっと自分の過去とホントのサヨナラかできそうだと思ったの。初めて梅ちゃんに会ってから25年も経ったなんて信じられない。こんなに時間が過ぎても、またアタシに出会ってくれて、アタシを愛してくれて…ありがとう。そして最後にアタシを中学の時からずっと夢見て来たイチの花嫁にしてくれて。ありがとう、イチ。中学の時からずっと忘れることのなかったイチに逢った時は本当に驚いた。

昨日、あの男が言った言葉で今まで10年間ずっと引きずってたものがサーっと消えていく気がしたの。


昨日の男、イチの仇の男なんだよね。しかもあの男がアタシの不倫相手だった男。別に好きじゃなかった。10年前、両親を一度に亡くして、寂しい時、気がついたら隣にいた。それから惰性で付き合って、そして中絶もさせられた。結婚してくれるって言ってたのが嘘だとわかって、そしたら大企業の社長の娘とも付き合ってて、二股ってやつ。あの男は結局、その女と結婚してアタシは捨てられた。

そのくせ10年も経って『真梨子、一緒に日本に帰ろう。俺ともう一度やり直してくれないか?』だって…笑えるでしょ。10年経っても未だに自分のことが何も分かってない。どうせセックスする相手がいなくなっただけ。中学の頃からの親友に絵里子っているんだけど、少し前その絵里子から聞いた。あの男、業務上横領で会社から追い出され、創業家一族の奥さんからも三行半を突きつけられたって。三億も使い込んで。どうせキャバ嬢かなんかに貢いだってとこ。これこそ身から出た錆ってもんよね。顔も見たくなかったから部屋には10分もいなかった。アタシが追い出したから。

そして今年初めの検査で乳癌がすでに転移してしまってて…手の施しようがないって言われた。たぶん今年いっぱいだろうって。最初はさすがに泣いた。毎日、毎日泣き続けた。このままイチに会えないまま死ぬのかって思うだけでおかしくなりそうだった。せめて一度だけでもイチに会いたかった。そう毎晩、神様にお願いした。

 そしたらあの日、アタシのすぐそばにイチが立ってて、心臓が止まるかと思った。あー、神様はいたんだって泣くのを必死で我慢してたんだよ。もっと早くイチに会ってればちゃんと治療したのかな?ね?イチには気づかれないようにしてたんだけど、もう痛みに堪えられないの。だから今日で最後にする。女の見栄。分かってイチ。後は死ぬのを待つだけなんて嫌。これからどんどんしんどくなって…痛みで我慢できないアタシを、そんなアタシをイチに見て欲しくない。

イチと暮らした日々には一生分の幸せが詰まってたよね。朝も夜もすぐそこにはイチがいて微笑んでくれてた。アタシが作る餃子だって「美味しい」を連発してくれた。幸せ過ぎた。でも病気のことを知ったらきっとイチはアタシのことを心配していろんなことしてくれるはず。でも…辛そうなアタシがイチの記憶の最後になるのが嫌なの。イチの中にいるアタシは綺麗な、そして幸せいっぱいの姿でいて欲しいの。

アタシが淹れたコーヒーもいつでも美味しいって言ってくれた。夜のバルコニーでいっぱいいっぱいおしゃべりした。セックスなんてできなくてもソファやベッドの上でじゃれあってるだけでよかった。ただそれだけで十分すぎるほど幸せだった。いつもこんなに幸せでいいの?って思ってた。家のすぐそばの森を朝、散歩しながらおしゃべりするのも好きだった。

だから分かって。ね、イチ。でもたった一つだけ悔やまれるのは、イチの赤ちゃんが産めなかったこと。EDって言っても人工授精とかの方法なら何とかなるんじゃないかっても考えた。もう一年も生きられないくせに、赤ちゃんなんて虫が良すぎるよね。でもイチがどう思うか分からなかったから言えなかった。あと一つあった。イチとアタシの小説を読めなかったこと。タイトルは『ベルビューの恋人』が良いな。できたらでいいから。やっぱり…覚悟決めたはずなのに…なんでかなあ。イチに最後に会いたくなる。イチの小説…まだ全部読んでないよ。向こうにいったらスマホって使えるのかな?また読めるかな?読めるよね?

イチの小説、どれも好きだけど一番は『星の砂と月のピアス』。アタシもあんな風に一人の男の人を愛せたら…って羨ましかったんだよ。ちゃんと愛せたかな?アタシ…ねえイチ?イチはいっぱいキスしてくれた。あんなに長くキスした人なんてこれまで誰もいなかった。別に一つになれなくてもアタシとイチはいつも一つだったよね。

初めてキスして初めて肌を重ねたあの夜、思ったことがあるの。アタシとイチ…前世は一つだったんじゃないかって。笑わないでよ…でもそれくらい二人の肌は一つに感じた。イチに触れられてるのに…自分の肌の感触と同じだった。だから…来世でも来来世でも来来来世でも…またアタシはイチに会える気がしてる。


あーあ、もう空が明るくなってきたよ。それにもう意識もなくなってきちゃった。

もう眠っていい?イチ…。またね。愛してる。ずっとずっとイチをマリーン湖で待ってるね。

意識も朦朧となる中、一夜への最初で最後のラブレターを書いた後…這うようにしてあの湖まで行ったのだろう。家から湖までその跡がくっきりと残されいた。

何枚もの便箋にしたためられた抱えきれないほどの真梨子の思いに号泣する一夜。そして手紙の最後に真梨子が来て欲しいと書いていた、二人が出会ったマリーン湖のほとりに近づいた一夜の視界に飛び込んできたのはウエディングドレスを着て湖に浮かんで眠った真梨子の姿だった。

「できたよ、真梨子。あとは二人で…生きていこう、な」

 僕が最後に愛した君はどんな高価な宝物よりも貴重で、化粧していないその君はどんなに着飾った女優より美しい僕だけの女優だった。また生まれ変わっても君を探すよ。真梨子、永遠の愛を君にーーーー。

海よりも深いこの愛を君に捧ぐ。

梅木真梨子へ   梅木一夜より

これが一夜が真梨子のために最後に書いた小説の最後の一文だった。

 それから数年後、シアトルの新聞のコラムに「Lovers In Bellevue」というタイトルの小さな記事が掲載された。

それはマリーン湖の近くの丘の崖にあった小さな洞窟の中で一組の男女の白骨屍体が見つけられたという10行にも満たない記事だった。二人はタキシードとウエディングドレスを着て、二人の薬指には赤い糸が巻かれていたと伝えていた。そしてーーーー


美しくも儚い恋人たちがここベルビューに眠る。


と、その記事は締めくくられていた。

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